二人静金襴(ふたりしずかきんらん)



この名称は名物裂の五つの分類のどれにも入らない。所蔵者名でもなく伝来した人名でもない。生産地や所在地の名をつけたものでもなければ、文様を名称にしたものでもなく名物器の名を冠したものでもない。足利義政が「二人静」の能衣裳ににこの裂を使用したためと伝えられている。真相はわからないが、能の「二人静」に何らかの関係があったかもしれない。情趣深い燕の地色に美しい綾目の地に、古調を伝える鳳凰の向かい合う丸文様を金糸で出しているが、金はいまだに光沢を失わず燕の地色に静かに溶け込んで気品高い作風を作り出している。文様の古様さ、金色の厚さなどから宋末ごろの製作とみられる。名物裂金襴の中でも最古のものとされているが、作風の優れた気品高い作品である。前田家三名物のひとつ浅茅肩衝には本袋のひとつにこの「二人静」が使用されているが、名品には名裂がはやくから使用されていたのである。

二人静金襴 ※拡大画像